コラム|セキュリティ

米国NISTの無償の手引きで始める、SCS評価制度★3の準備

公開:2026-10-31 更新:2026-10-31 文:渡部 秀雄(DXプランニング代表)

取引先からSCS評価制度★3について聞かれた中小企業向けに、米国NISTの無償の手引き(公式日本語版)で今の対策に○×を付け、★3の準備の順番を決める手順を紹介します。

セキュリティ確認 回答案 対策しています取引先へ

取引先から「SCS評価制度の★3を取れますか」と聞かれ、何から手を付けるか迷っている総務担当・経営者の方に向けた記事です。米国のNIST(国立標準技術研究所)が中小企業向けに出した9ページの手引きには、公式の日本語版があり、無償で使えます。この手引きで今の対策に○×を付け、★3の準備の順番を決める手順を紹介します。

今回のポイント

結論から書きます。★3の準備は、NISTの手引き「SP 1300」で全体に○×を付けてから始めると、順番を決めやすくなります。次に、IPAのアセスメントシート(自己評価用の記入表)を、×が付いた分野から読みます。このシートは2026年10月28日に公開されました。

ただし、NISTで○が並んでも、★3に通るとは限りません。NISTの手引きには、合否も登録もないからです。NISTは全体を見る「地図」、IPAのシートは「答案」と分けて使います。

以前、「取引先からセキュリティチェックシートが届いたら、中小企業がまずやること」で、SCS評価制度の取得は任意だと書きました。まず取引先の要求と自社の現状を確かめる、という助言です。今回はその続きとして、★3を目指すと決めたあとの進め方を書きます。

★3で求められること

制度の正式名称は「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」です。サプライチェーンとは、取引先や委託先とのつながりのことです。経済産業省と内閣官房国家サイバー統括室の監督のもと、IPA(情報処理推進機構)が運営します。

★3の水準は「一般的なサイバー脅威に対処しうること」です。要求項目は26件あり、合格にはすべてを満たす必要があります。★4は43件で、評価機関による第三者評価を受けます。

★3では、まず自社で自己評価をします。それをSCSセキュリティ専門家(★3確認責任者)が確かめ、署名します。最後に、経営層の合意にもとづく自己適合宣言を付けて、IPAに申請します。

専門家になれるのは、決められた資格を持ち、研修を受けてIPAに登録した人です。資格には、情報処理安全確保支援士や、CISSP(国際的なセキュリティ資格)などがあります。

登録料は、1年分で10,000円(消費税込み)です。これは2028年3月31日までの割引料金で、その後は20,000円になります。★3は1年ごとの更新です。

これからの予定

次の予定は、2026年10月時点のものです。IPAは、遅れが出た場合は受付開始の時期を見直すとしています。

  • 公開済み(2026年10月28日):★3・★4自己評価等ガイド(アセスメントシート付き)、要求事項・評価基準の解説書など
  • 予定(2026年11月末頃):登録申請の手引の公開
  • 予定(2026年12月下旬):評価機関・技術検証事業者・研修事業者の指定と公表
  • 予定(2027年1月以降):研修と専門家の登録。1月中旬に申請用のシステムが動き始める
  • 予定(2027年3月):★3・★4の登録申請の受付開始

NISTの手引き「SP 1300」の中身

SP 1300は2024年2月に公開されました。対象は、セキュリティの計画がほとんどない中小企業です。非営利団体や学校にも役立つとしています。

2025年3月には、公式の日本語版が掲載されました。IPAの担当者が翻訳し、NISTの委託先が確認した「米国政府公式翻訳」です。

9ページのうち中心になるのは、「統治・識別・防御・検知・対応・復旧」の6つの機能(取り組みの分野)のページです。1つの機能を1ページで示し、検討すべき行動と質問、記入用の表が付いています。たとえば、次のような表があります。

  • 防御:銀行、会計、メール、Microsoft・Google・AppleのIDなどで、多要素認証が有効かを「はい・いいえ」で付ける表。多要素認証とは、パスワードに加えて、スマートフォンでの確認など別の手段でも本人を確かめる仕組みです。NISTはこれを「データを保護するための最も迅速で安価な方法の一つ」としています。
  • 統治:法律や契約で求められているセキュリティの決まりを書き出す表。
  • 対応:経営者、技術担当、警察、法務、銀行、保険の連絡先表。「対応の計画を練習したことがあるか」という質問も付きます。
  • 復旧:バックアップを戻す前に、中身が壊れていないかを確かめる項目。

手引きは、自力で対処できない項目を、外部の専門業者と話す「きっかけ」に使うよう勧めています。日本なら、★3確認責任者やお助け隊の事業者と話すときの材料になります。

米国・英国・日本の比較

中小企業の対策を後押しする仕組みは、国によって性格が違います。同じ観点で並べました。

観点日本:SCS評価制度★3米国:NIST SP 1300英国:Cyber Essentials
発表元・時期経産省・国家サイバー統括室が2026年3月に方針を公表。運営はIPANIST。2024年2月(日本語版は2025年3月)NCSC(国家サイバーセキュリティセンター)が開発。普及の数字は英国政府の調査(2026年4月公表)
性格任意の評価制度。取引条件にするかは当事者が決める任意・無償の手引き。合否も登録もない政府が推奨する認証制度(運営はIASME)
評価の方法自己評価に、専門家の確認と署名を付ける自分で記入表を使って確かめる自己評価の回答を役員が承認し、評価者が採点。上位版(Plus)は独立した技術テストを行う
項目の数と範囲26の要求項目。すべて満たす必要がある6つの機能。1機能1ページ技術的な対策5つ(ファイアウォール(不正な通信を止める仕組み)、安全な設定、更新の管理、利用者の権限の管理、ウイルス対策)
費用と支援登録料は1年10,000円(2028年3月まで)。無償の取得支援事業あり無償組織の規模に応じて£320+VAT(付加価値税)から。売上£20m未満で全社取得した組織には、サイバー保険が付く
普及の状況受付は2027年3月からの予定。取得企業は受付開始後に公表登録がないため、取得数はない取得企業は5%(小規模企業は12%)、認知度は17%(2025/26年)

英国の取得企業は、前年の3%から5%に増えました。100社のうち5社ほどです。小規模企業では、5%から12%に上がっています。同じ調査では、過去12か月に侵害や攻撃を受けた企業が43%、10社のうち4社ほどでした。

この比較から、「手引き」と「証明」は役割が違うことが分かります。米国の手引きは、自社の現状を知るための道具です。日本の★3や英国の認証は、取引先に対策を示すための仕組みです。

日本の中小企業なら、米国の無償の手引きで現状をつかみ、証明が要るときは★3で示す、という使い分けができます。一方で、米国の手引きは日本の制度に合わせて作られていません。★3の26項目と1対1では対応しない点に注意が要ります。

NISTの○×を★3につなぐ

つなぐときの目安は、IPAの解説書の章立てです。解説書の第5章は、次の7つに分かれています。

  1. ガバナンスの整備
  2. 取引先管理
  3. リスクの特定
  4. 攻撃等の防御
  5. 攻撃等の検知
  6. インシデント(事故)への対応
  7. インシデントからの復旧

NISTの6つの機能と、構成がよく似ています。違いは、「取引先管理」が独立していることです。NISTで○×を付けたあとに「取引先管理」を1行足すと、★3の準備の地図になります。

注意する点は2つあります。1つめに、NISTには合否がありません。★3では、26項目すべてを満たしたうえで、専門家の署名と経営層の宣言をそろえる必要があります。

2つめに、NISTの統治のページには、契約前に取引先のリスクを確かめる項目(GV.SC-06)があります。これは、自社が相手を見るための項目です。自社の対策を取引先に示す証明にはなりません。

ただ、この項目は、自社が仕事を委託する側としても使えます。例えば、経理を会計事務所に、顧客名簿を発送業者に預けている場合です。預け先が攻撃されれば、自社の情報も影響を受けます。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」組織編でも、2位は「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」で、8年連続でした。

NISTの手引きで○が付いても、★3の要求項目を満たしているとは限りません。最終的には、IPAのアセスメントシートと★3確認責任者の確認で判断します。

どこから始めるか

私なら、防御のページにある多要素認証の表から始めます。メールや銀行など毎日使うアカウントが並んでいて、その場で確かめやすいからです。NISTが「最も迅速で安価な方法の一つ」としている点も、最初の一手に向いています。

例えば、月曜の朝に取引先から「★3の予定を教えてください」とメールが届いたとします。6つの機能の○×表が手元にあれば、できている所と未対応の所を、事実にもとづいて返せます。

印刷するのは、6つの機能(統治・識別・防御・検知・対応・復旧)のページです。1機能1ページなので6枚です。○×を付けた紙が、そのままアセスメントシートを読む順番になります。

今日からできること

  1. NISTの日本語版を印刷して○×を付ける
    出典のPDFを開き、6つの機能のページを印刷して、「検討すべき行動」に○×を付けます。
  2. 多要素認証の表を埋める
    銀行・メール・会計などのアカウントごとに「はい・いいえ」を付け、「いいえ」の所から設定を見直します。
  3. IPAのアセスメントシートを入手する
    IPAの「要求事項・評価基準」のページから、Excelのアセスメントシートをダウンロードし、NISTで×だった分野から読みます。
  4. 確認責任者を社内で育てるか、社外に頼むか決める
    研修は2027年1月以降の予定です。社外に頼む場合は、依頼先に見積もりを取ります。
  5. お助け隊(新類型)の募集状況を見る
    IPAのページで15事業者の状況を確かめます。申し込めるのは1社だけで、参加は無償、期間は2027年9月までの予定です。すでに募集を終えた事業者もあります。

よくある疑問

Q. ★3を取れないと、取引は止まりますか

IPAのよくある質問では、すべてを満たしていないことを理由に、すぐ取引停止が求められるものではないとしています。まず取引先に「★いくつを、いつまでに」求めているかを聞きます。そのうえで、準備の予定を伝えます。

Q. 今のお助け隊サービスでは足りませんか

従来のお助け隊サービスは、2026年3月末までに約10,900社が導入しています。ただし、★3の要求項目の一部しか満たさないため、IPAは新類型を作りました。新類型では、要求項目ごとの診断と改善計画、ツールなどの支援、申請の支援まで行います。参加すると、意見や不審な通信の情報を提供するよう求められます。

DXプランニングで受けられるサービス

NISTの手引きやIPAのアセスメントシートで付けた○×を、取引先への回答や★3の準備に使うなら、チェックシートの回答支援でお手伝いできます。各項目が何を求めているかを一覧にし、今の対策を確かめて、事実に沿った回答案を作ります。足りない対策の実施、社内ルールづくり、SCS評価制度への備えも引き受けます。料金は、50項目までの回答支援が30,000円、51〜150項目が60,000円、足りない対策の実施が50,000円からです。

まとめ

NISTの日本語版で6つの機能に○×を付け、×の分野からIPAのシートを読むと、★3の準備の順番が決まります。★3は1年ごとの更新なので、○×表と回答を残しておくと、翌年はその見直しから始められます。同じ作業の繰り返しは、仕組みにできるところから。DXプランニングは、そこから考えます。

出典

確認日:2026年10月31日

この記事を書いた人渡部 秀雄(DXプランニング代表)。IT企業で、企業向けのデータ連携基盤の構築・検証、帳票づくりの自動化、ホームページのサーバー管理から更新までの運用に携わっています。IT担当がいない中小企業・団体の外部のIT担当として、相談から仕組みづくり、保守までを引き受けています。

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